銀行員がデジタルマーケティングの会社に入ったら、いつのまにか漁師になっていた

社員コラム | 2021-03-24

シンクロは2020年より対馬で漁業を始めました。
なぜ東京のデジタルマーケティング支援会社が、突然対馬で漁業を始めたのか。漁師見習いとしてひとり揚々と対馬に異動していった社員のマリオさんに聞きました。

対馬に異動した社員、マリオ

バングラデシュに釣りに行く道中、西井さんに出会った

――デジタルマーケティングのコンサルティングなどを行っているシンクロが、2020年から「漁業」を始めたそうですね。社員の久美さんと、漁業事業を担当するマリオさんに話を聞きたいと思います。

<久美>よろしくお願いします。私はシンクロ歴3年でフィリピン在住なのですが、しばらく日本に行かないうちに、マリオが漁師になったようで、日々日報で「漁に出るため3日間連絡とれません」「延縄(はえなわ)漁の全体像をまとめました」という報告を目にするようになり、戸惑っています。
私も疑問に思っていたことを、漁業事業担当のマリオに聞けたらと思います。

植嶋 久美
久美

<マリオ>対馬の漁師見習いのマリオです。よろしくお願いします。

マリオ

マリオの日報より

ある日の日報(1)
ある日の日報(2)
突然アップされた「延縄漁について」という資料

――久美さんは最初マリオさんと同じチームだったそうですが、マリオさんが入社したのはいつでしたか?

 

<久美>2019年の秋ごろですね。メディア運用をしていた私に、社長の西井から「今度、マーケターの原石が入社して、久美さんのチームになるからよろしくね。優秀なヤツだから」と声をかけられ、入社してきたのが通称マリオ、本名も佐藤万里央(さとう・まりお)でした。

 

<マリオ>前職を辞めて、7月から8月にかけてアマゾンに釣りに行って、9月に入社したんです。

インタビューはじめから、頭に「?」マークが浮かぶ

――Amazo…いや、アマゾン…? あの熱帯雨林の?

 

<久美>西井は自分自身も世界一周旅行を2回経験していて、旅をすることで自分の知見が広がると考えているんです。

私も世界一周をしていますし、ほかの社員も何十か国と訪れている人が多いのですが、マリオは数か国しか行ったことがなかった。だから旅の経験が足りないということで、入社条件として「アマゾンで魚を釣ること」になったそうです。

 

――えーっと、では「釣り」というのは…?

 

<マリオ>僕は釣りが好きで、よく西井の出張先に付いて行っては、釣り仲間、旅行仲間として一緒に遊んでいました。

 

<久美>それで西井が、マリオは「釣りができる」からってシンクロに誘ったらしいんです。というのも、マリオは初めて行った場所でも、どこで魚が釣れるかがピンポイントで分かるそうなんですよ。

 

<マリオ>そうですね。僕はあらかじめ地形をリサーチして、釣り糸を垂れながら、どんなエサがいいか、糸や針はどうするのがいいのか、仮説検証を繰り返しながら成功法を見つけるんです。つまりPDCAですね。みなさんも、ビジネスやマーケティングでやっているんじゃないですか。

 

<久美>(え、なぜ上から・・・?)マーケターにも釣りをやる人は多いそうなのですが、マリオの場合は逆に「釣りがこれだけできるから、きっとマーケターとしても優秀なはずだ」と西井が思ったんでしょうね。

いつも釣りのことを考えているマリオ。すぐに地形を確認できるようにGoogleマップはデフォルトで「航空写真」

――当時、マリオさんは何の仕事をされていたのですか?

 

<マリオ>誘われた当時は、地元の島根にある地方銀行で、地場の企業を相手にする営業マンをしていました。
ただ、そこではエクセルすら使わないというくらいに、デジタルに触れる機会がなくて…。自分の中でもこのままでいいのかなという危機感があって、そのときに声をかけてもらったので、良い機会だと思って飛び込んだんです。

 

――島根の地方銀行から東京のデジタルマーケティング企業に転職とは、またすごいキャリアチェンジですね。

 

<マリオ>言われてみれば、そうですね。

 

――そもそも西井さんとは、いつどのように出会ったのですか?

 

<マリオ>出会ったのは僕が大学4年の3月に海外で、それこそ2011年3月11日、東日本大震災の当日でした。その日は、バングラデシュに釣りに行くために10時くらいのフライトで成田を発って、飛行機の中にいるときに地震があったわけですが、僕自身はそれを知らなくて…。

トランジットのマレーシア空港で、西井に「日本人の方ですか?日本、大変なことになってますよ」って声を掛けられたのが最初です。西井も同じくバングラデシュに行くところで、帰りもほぼ一緒の日程だったんですよね。

 

<久美>すごい偶然。しかも、マリオ自身は海外にそんなに行ってるわけではないんだよね。

 

<マリオ>というか、初海外でした。

 

――初海外で、3.11に、偶然西井さんにお会いしたと。ところで、バングラデシュにも「釣り」に…?

 

<マリオ>そうですね。当時のアルバイト先にバングラデシュ人がいて、その人が1か月くらい地元に帰ると言うんで、ちょっと釣りするから家に泊めてよって。

 

――いや、そもそも初海外の目的が釣りって、なかなか聞かないですよ。

対馬旅行中に、やってみようかなって

――…で、今は対馬にいる、と。新規事業として漁業を始めることになったのはいつですか?

 

<マリオ>去年(2020年)の10月からですね。

 

<久美>入って最初の1年間は東京でデジタルマーケティングの仕事と、会社の経理業務をやってたんだよね。フィリピンにいる私からしたら突然、「シンクロで漁業を始めます、来月からマリオが対馬に異動になります」と聞いて、もうびっくりして。漁業って何?対馬ってどこ?って、何から聞いていいか分からないみたいな。

 

――デジタルマーケティングの会社が突然漁業を始めるって、誰が聞いても驚きですよ。マリオさんはどういう形でこの話を知ったのですか?

 

<マリオ>西井と一部のシンクロメンバーとは、毎年日本各地の島に行く旅を企画していて、それが去年は対馬でした。そのときに地元の人から対馬では漁師が不足していて、受け入れに力を入れているという話を聞いて。
対馬は漁場としてもすごくいいし、漁業は未経験だったけど、もしよかったらやってみようかなと思ったんです。西井からも「行ってこい」ということで、その場で決まった感じですね。

対馬旅行の様子
地元の漁師さんではなく、シンクロ代表の西井

――え、急展開すぎませんか?

 

<久美>対馬で漁師の担い手を探しているという課題感があった一方で、美食家でもある西井はいろいろな名店に行く中で、シェフや板前の方から、最近なかなかいい魚が手に入らないという話を聞いていて、何かできないかと考えていたそうです。

それで、漁業には「魚のサステナブル」という考え方と「漁業DX」による改革が必要なのではと漠然と思っていたところに、対馬で漁師の受け入れがあって、隣にはマリオがいた。

 

――そこですべて繋がったんですね。

 

<久美>ええ、そのようです・・・。

――10月に対馬に異動して、すぐに漁師として働き始めたんですか。

 

<マリオ>厳密には、僕は漁師見習いですね。漁師になるには漁業権が必要で、それを取るには各漁協によって条件があるんです。基本的には半年から1年はその土地に住んで、見習いとして漁業に従業しなければならないという感じです。

 

<久美>見習い期間を経て、ようやく漁師として認められるんだね。

 

<マリオ>そうです。僕は最初に数日、船で寝泊まりしながら漁をする船に乗りました。あとから知ったんですが、それはどうやら島内でかなり過酷な漁だったみたいで。

 

<久美>そうらしいね。普通なら慣れてないと体力、気力ともにキツい漁だけど、マリオはむしろ楽しそうにしていたって…。

 

<マリオ>揺れる中で寝泊まりしてご飯も食べるし、言われてみればキツいのかもしれないですね。でも、船長さんも乗組員さんもみんないい人だったし、楽しみながらお手伝いができました。

 

<久美>人間関係も大事そうですね。

 

<マリオ>実は、その寝泊まりをするような船に最初に乗った経験は今でも大きくて。どんな漁師さんに「船に乗せてください」と頼みに行っても、普通なら不安に思われるのですが、そのような船に乗っていたと言うと「それなら、うちは余裕だね」と言ってもらえるんです。

 

<久美>(地元のベテラン漁師さんさえ認める過酷な漁を楽しんでいる・・・?)

――マ、マリオさんのすごさが伝わってきました。漁師見習いとしての1日は、どのように過ごしているのですか?

 

<マリオ>漁に行く日は、夜明け前後の朝に海に出ます。今だと6~7時ごろに出航して、11時半ごろに戻ってきて、午後も漁に出る日はまた1時くらいから出航するという感じです。

 

――1日2回も漁に出ることがあるんですか?

 

<マリオ>魚が欲しいときは、そうですね。でも今は海がしける(※荒れる)時期だから、1日出られる日があったらラッキーです。今の時期は週2~3回、しけてない時期は週4くらいの頻度で漁に出ます。

 

<久美>へえ、もっと週5とかで漁に出るんだと思ってた。

 

<マリオ>意外に少ないと思うかもしれないんですけど、大事な作業があって。陸仕事といって、漁の準備をするために仕掛けを直したりするんです。道具を常にいい状態にしておかないと、いざ漁に出たときに思うような成果が上げられないので、これがすごく大事なんですよ。陸仕事の日は8時に出社して、だいたい5時ごろまでやっていますね。

「陸仕事」について

陸仕事の様子
近隣の漁師さんに延縄漁を習い、準備の大切さについて話すマリオと、代表の西井

シンクロが目指す「漁業DX」

――シンクロが考える「魚のサステナブル」と「漁業DX」というのは、どんな内容なのですか?

 

<久美>端的に言うと、魚が今後も持続的に獲れるように、供給が安定する程度の適正な量を獲るということだそうです。一匹一匹の魚に付加価値を付けて、適正価格で取引することで、量を獲らなくてもビジネスが成り立つようにすることが重要です。

データ管理や仕組み作りなど、デジタルの力でサステナブルな漁業ビジネスを推進していくことが、「漁業DX」に繋がると考えています。

 

<マリオ>漁師さんのほとんどは獲った魚を漁協に卸すのですが、その場合は、魚が獲れれば獲れるほど、卸せば卸すほどお金が儲かります。でも、魚をたくさん獲って、何の処理もせずにそのまま卸すと、鮮度や品質が落ちてしまう。
僕らの考え方では、鮮度や品質が落ちないように、船上での血抜きや急速凍結などの管理をして、鮮度がいいまま、おいしい魚を求めている飲食店に直接卸すんです。

――なるほど、必要な量だけ獲って、おいしい魚を適正価格で届けるんですね。

 

<マリオ>実は、対馬にはすでにこの構想を実現しているフラットアワーという会社があって。僕は今その人たちと一緒に働いています。飲食店と直接やり取りをするので、お客さんからの要望も直接聞いています。たとえば、その日に送るよりも2日ほど寝かせた方がおいしい魚があれば、相談するとか。
つまり、顧客ニーズに合わせてカスタマイズして、それぞれにソリューションを提案するという感じですね。

 

<久美>(またビジネス用語が出てきた・・・)お客さんである飲食店とかと直接会話ができるのはいいね。

 

<マリオ>そうです。それで、フィードバックをもらったり。こちらから旬の魚を提案することもあって、ブリは12月に需要が一番高まるのですが、実は一番脂がのっていておいしいのは1月や2月。僕らはそのときをあえて狙って、お客さんにおすすめしたり。

大きいブリ!

――販売は、どのような形でやってるんですか?

 

<マリオ>今はFacebookなどSNSが多いですね。Facebookに獲れた魚を上げて、それを飲食店さんが見て購入します。お客さんは関東の飲食店さんが多いですね。

そういったお客さんのニーズと、どの時期にどの魚がおいしいとか、いつが一番獲れるとか、これまでは漁師さんの頭の中にあった情報をなるべくデータ化して、それをもとに今後の漁の計画を立てていますね。

Facebookに投稿された魚の情報

――最後に、マリオさんの今後の目標は何ですか。

 

<マリオ>僕はまだまだ見習いなので、まずは一人前の漁師になることが目下の目標ですね。あと、僕自身も地方出身なので、地方が良くなってほしいなって。僕は釣りが好きで漁業をやることになったけど、そんな若者でも楽しくやってるし、東京でカチャカチャやらなくても仕事はできる。自分で言うのもなんだけど、地方でもこうやって活躍できるっていうことが示せているいい例なんじゃないかなと思ってます。

 

<久美>(カチャカチャ・・・?)

<マリオ>東京の仕事は頭しか使わないじゃないですか。こっちに来て、頭も身体も使って、真のマーケティングをしているという実感がありますね。

 

<久美>(え、マーケティング?漁業? 深掘りするのやめよう・・・)たしかにマリオ、東京にいたときよりイキイキしてるよね。

 

<マリオ>そうですかね。西井の言う「多様性」のおかげで、僕にフィットした場所が見つかったんですよね。同じようなことがもっともっと全国で広がれば、自分が一番フィットするところで、仕事ができる可能性が広がるのかもしれない。そうやって、多様性がもっと認められるといいと思いますね。

――マリオさんは漁師見習いでありながら、シンクロの一員でもあるわけですが、シンクロの漁業事業として、今後の展望はありますか?

 

<マリオ>ええと、それは…。自分は明日の漁のことで頭がいっぱいなので、西井に聞いてください。

 

<久美>これ本当にね、マリオの日報を見ていると、視点が完全に“地元の漁師さん”なんですよ。漁師さんの視点は大事なのですが、そこにマーケティング視点も入れて、シンクロの事業として漁師の仕事や漁業を語ってほしいんだけど・・・

 

<マリオ>僕は、まず一人前の漁師になることが目標ですから。

 

<久美>お、おぅ。(やっぱり最後まで漁師だった・・・)

(了)

       

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