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冒険心は教室から始まる!授業で「旅」の話を取り入れるバックパッカー教師の思いと挑戦

シンクロは、メンバーの半分は世界一周の経験があり、特に代表西井の訪問国数は150を超えるなど、旅好きが多い会社です。
今回対談を行った武も、西井と旅つながりで出会い、その後ゴルフ仲間として20年来の友人でしたが、2年前にシンクロにジョインし、宿泊事業の立ち上げなどを担当しています。

そして、対談相手としてお迎えするのは、同じく旅がきっかけで西井・武と出会い、国立市にある小学校の教員を務める有馬佑介先生です。

有馬先生は、小学校の授業にこれまでなんと2回も西井をお招きいただきました。西井は小学6年生相手の授業で、バックパッカー旅の話ばかりをしたようですが、そんな授業で大丈夫だったのでしょうか・・・?

有馬先生と武は、この日がなんと15年ぶりの再会でした。20年に渡って小学校の教員を務めている有馬先生に、旅から受けた影響や、教育現場で起こっていること、バックパッカーと教育の意外な共通点などを伺いました。

【バックパッカー対談】
有馬佑介先生 国立市の小学校の教員で、西井・武と20年来の友人。
武茂生 熱海の老舗大型ホテルに約20年間勤務後、シンクロに入社。

左:シンクロ武  右:有馬先生

バングラデシュの支援を通じた、仲間との出会い

—— 有馬先生は、西井や武とどのようなきっかけで出会ったのですか?

有馬
当時、僕は社会人1年目で、ずっと夢見ていた小学校教員になったばかりでした。仕事が楽しくて仕方がなくて、毎晩9時や10時まで学校に残って、自分はもっとおもしろい授業ができると意気込みながら授業の準備をしていました。でも、夏休みに入って子どもとの時間が途切れたときに、ふと、学校と家の往復しかしていない人間が、親の次に子どもと長い時間を過ごす大人で本当に良いのだろうかと思ったんです。


すごく早いですね。まだ就職して数カ月でしょう。

有馬
そうですね。でも、子どもに大きな影響を与えることは感じていて。そこで、自分が仕事のほかにやりたいことは何だろうと考えました。そのときに思ったのは、またバングラデシュに関わることがしたいということ。僕は、大学在学時にワークキャンプでバングラデシュへ行き、1カ月ほど現地に滞在していたんです。その後、現地でお世話になった家族にまた会いたくなり、大学の卒業旅行として1人でバングラデシュに行ったこともありました。

バングラデシュの子どもたち

そして、ネットでバングラデシュのボランティア活動などを調べたところ、ある団体がヒットして、そのメンバーたちが集まっている中目黒のバー行ってみることにしたんです。


バングラデシュのチッタゴンという地域に住む少数民族の寺子屋を支援する団体ですね。参加者から会費を集めて飲み会やバーベキューを開催して、費用の余剰分をチッタゴンの寺子屋に送るという活動をしていました。

有馬
最初はバングラカレーをつくるっていう話から始まって、活動が広がっていったんですよね。フットサルチームをつくって大会に出たりもしました。

皆が友だちを呼んだりして参加者を集めるので、毎回いろいろな人が集まり、トシさん(※西井のこと)や武さんにもその中で出会いました。参加者にはバックパッカーが多く、旅の話をよく聞いたのですが、めちゃくちゃかっこよくて。皆さんは僕よりも少し年上で、でも20代半ばから後半だったので、エネルギーに満ちていましたね。それまで僕が今まで接したことのない人たちだったので、すごく影響を受けました。


でも、有馬さんも1人でバングラデシュに行ったというのがすごいですよね。私も首都のダッカには行きましたが、当時は詳しいガイドブックもなかったし、洪水もすごいし、ダッカ以外は行く度胸がなかったですね。

有馬
当時、世界一周はしたけれどバングラは行ったことがないという人たちがいたので、すごいとリスペクトしてもらえました。

バックパッカーに憧れて、20カ国を旅した


バックパッカーのどういう部分をかっこいいと思ったんですか?

有馬
僕は、世界に興味はあっても、自分で踏み出す勇気はなかったんです。でも、皆当たり前のように世界の話をしていて。英語が喋れるようにも、お金があるようにも見えないのに、とにかく何かに飛び込んでいるように見えて、強烈に憧れました。その上、すごく優しいし。

中南米が良いという話をよく聞いていたので、春休みに1人でメキシコに行ってみたこともありました。皆に聞いた通りに、バスのチケットを値切って、メキシコシティから世界遺産のグアナファトに行って。グアナファトは本当に美しかったですね。1人ぼっちの旅だけれど、その代わり全部自分で決めて、行きたい場所に行くというのが、すごく楽しかったです。

メキシコのグアナファトにて


わかります。

有馬
皆には、その喜びを教えてもらいました。20代のうちは長期休みのたびに旅に出て、なんだかんだ20カ国には行きましたね。


それぞれ何日間ぐらい行ったんですか?

有馬
夏なら、インドなどに最高で20日間は行っていました。僕、インドがけっこう好きになりまして。インドの中でも、北インドはミーハーだ、行くなら南だと言われて(笑)。


若い頃だったら、皆そう言いそうですね(笑)。

有馬
ゴープラムという、神様のフィギュアみたいなものを数えきれないほど敷き詰めたような寺の門を見て、南インドが好きになったんです。インドに限らず、知らない場所に降り立つと、そこにはガイドブックや地図を見ながら想像していたものとは全く違う景色が広がっていて、さあここから宿を探すぞというワクワク感があって。滞在しているうちに、何となくその町を歩けるようになり、自分がその町に勝手に馴染んだように思えたりして。大げさに言えば、生きているという感覚になれるところが、本当にすごく楽しかったですね。

インドの旅


それで、20代は旅にハマったんでね。

有馬
そうですね。印象的だったのは、タイのバンコクに行ったときに、同じ宿にまだ小さな男の子を連れている西洋人の男性がいたこと。親子ふたり旅なんて何てことないという顔をして安宿に泊まり、2人で朝食を食べている様子がかっこいい、いつか自分も子どもを連れて旅をしたいと思いました。それで、実は去年の夏に、小学3年生の息子と2人でベトナムのホイアンに行ってきたんです。


あっ、この間Facebookで見ましたよ。夢が叶ったって書いていましたね。

有馬
そうなんです。努めて「大したことじゃない」という顔をしながら行ってきました(笑)。もう、たまらなかったですね。でも一人旅もまた行きたいですね。

昔と今で、旅は大きく変わった


僕らが20代の頃と比べると、旅もだいぶ変わってきましたよね。どこでもインターネットが使えるようになって、マップやお店の評価を見たり、宿の予約やルート検索をしたりと、何でもできるようになりました。

有馬
20代の頃はインターネットが出始めたばかりで、もちろんスマホもないし、インターネットカフェからせいぜいメールができるかなという程度。「ジャパニーズOK」って言うのに、日本語入力はできないから、全部ローマ字で打ってましたね。


当時の一人旅と今の一人旅では、大きく違いますよね。当時はGoogleマップがなかったから、自分がどこに降り立ったのかもわからなかった。それでも旅はできていたけれど、今はもうそういうツールがなければできないと思っちゃいますね。
先日、韓国の釜山に行ってきたのですが、調べれば乗るべきバスの番号から、今そのバスがどこにいるのかといった情報まで出てきましたから。

有馬
今や両替も必要ないですもんね、カードで決済もできてしまうから。


当時の旅行は便利ではなかったけれど冒険的で、それはそれで幸せだったのかなと思います。便利だから楽しいわけじゃないんだろうなって。

有馬
かつては旅人同士で情報共有するためのノートがありましたよね。イスタンブールでは現地で知り合った男の子と一緒に、そのノートを読んで何となく覚えていたローカルなハマム(大衆浴場)にバスを何台も乗り継いで行きましたね。楽しかったな。

イスタンブールの安宿にて

子どもたちに、素敵な人を会わせたい

—— 小学校では、起業家をはじめ、いろいろな人を招いた授業を開催されていますよね。どのようなきっかけで始めたのですか?

有馬
4年生の社会科の授業で、郷土に尽くした人について学ぶ単元があるのですが、どうせなら今まさに日本や地球のために何かしようとしている人たちの話を聞いてもらった方が良いのではないかと思ったんです。

そうした話を人にしていたら、起業家を志す学生が集まるプレゼン大会に呼んでもらえて見に行ったのですが、やっぱりすごく面白いんですよね。本気で世界を変えようという熱を持ち、それをすごく楽しそうにやっている大人に出会わせるって、とても大事なことだなと思いました。そこで「小学生に話をしてくれませんか」とお願いしたところ、皆さん快諾してくださいました。


おもしろい大人を子どもたちにも会わせたくなるんですね。

有馬
子どもたちのことが大好きだから、素敵な人と会わせたいんですよ。生き生きとしている大人と会うことで、大人になることが楽しみになればいいなと思っています。学校は、大人になるとしんどいという幻想を抱かせかねない場所ですが、社会はもっと許容が広いし、許容を広げるために努力している人もたくさんいるということを伝えたいんですよね。

トシさんはその典型で、すごく日々を楽しんでいるし、そのために勉強もしている。自分のやりたいことがあるなら当然でしょというような言い方をしていて、「これだよな」と思いました。学ぶことや変わっていくことはしんどいことではありますが、そのしんどさは、本当は楽しめることなんです。言うほど大人って窮屈じゃなし、むしろ自由なんじゃないかと。そのための努力も楽しいからできる、そういう人に育ってほしいし、そういう人に育てる仕事だと思っています。


そういった視点で、おもしろいと思った人を学校に招待しているんですね。

有馬
バックパッカーになって、未知へ踏み出す勇気を旅に教わったので、そのおかげですね。


これまで、どのような人を呼んだんですか?

有馬
漁業に関連する単元のときには、対馬で漁業を営む方に来ていただいたり、自動車に関連する単元では、旅先のタイで出会った日産の技術者の友人に来ていただいたりしましたね。


旅を通じて出会った人もいるんですね。確かに、小学生はいろいろな大人と出会う機会がなかなかないですからね。

有馬
自分でコーディネートした授業ですが、自分も子どものときに受けたかったな、子どもたち、ずるいなと思います(笑)。学校の先生自体も、普通に過ごしていると外の人と知り合う機会がなかなかないので、バックパッカー精神で飛び出してみて良かったなと思います。

小学生に旅の話をする西井


トシさんの授業では、旅の冒険エピソードやトラブルみたいな話をけっこうしたそうなんですが(笑)、みんなの反応はどうでしたか?

有馬
子どもたちからしたら知らない世界の話ばかりでしたが、「ピラミッドに登ってみたい」「アフリカを回ってみたい」「他の国の文化や食と触れ合いたい」といった感想もあり、世界を身近に感じて、冒険心を持つきっかけになったと思いますね。

—— 今年西井を呼んでいただいたのは、どのようなタイミングだったのですか。

有馬
5年生から受け持った子たちが6年生になり、もうすぐ卒業するというタイミングで、最後に誰かを呼ぼうと考えたときに浮かんだのがトシさんでした。トシさんは、飄々と大人を楽しんでいて、努力もしている。しんどいこともいっぱいあるだろうけど、好きなことをやってるって言い続けている。だからと言って枠を飛び出してやろうと考えているようにも見えなくて、あの人自身は真っ当にあの人の真ん中を歩いているんです。そういう生き方に、僕は強烈に憧れているんですよね。


確かに。

有馬
僕は、コロナ禍で学校が閉鎖して何をしていいか分からなくなったときに、そもそも学校の本質は何なのかを考えました。そして、授業をするというのもそうだけど、それよりも大切なことは、子どもたち同士が顔を合わせる、言葉を交わすところなのではないかと思いました。

そこで、いち早くオンラインで学校を再開しました。まずは授業ではなく、オンライン朝の会を行い、子どもたちの顔を合わせる機会を作るということをやりました。その次に、クラスメイトの姿が画面で見えている状態でそれぞれが読みたい本を読むオンライン図書室を、その次にお互いがそれぞれの家で勉強をしている姿を見合うオンライン自習室を開きました。それらをやっていくことによって教員が手ごたえを掴んでから、オンライン授業へ移行していきました。

そうしたのは、別に変わったことをやろうとしたからではなく、学校の本質が何かを考えたからです。周りに合わせるのではなく、本質を考えて行動することは、恥ずかしいから本人には絶対に言わないけれど、トシさんにすごく影響を受けているのだろうなと思います。

社会は変化しているけれど、子どもはいつの時代も変わらない

—— 教育現場に20年いらっしゃって、教育や子どもに変化は感じますか?

有馬
周りからは変わったとよく言われるのですが、実は子どもの変化はあまり感じていないですね。20年前に初めて受け持った子もと今の子を比べても、似たようなことで笑うし、子どもたちを信じて選択を任せることによって成長していく姿も全然変わっていないと思います。ただ子どもをとりまく社会は変化していて、保護者も学校も責任を求められる場面が増え、さらに情報が溢れる世界になったことで不特定多数からのプレッシャーも感じられるようになっています。


情報が流通しやすくなったというのは、学校も同じですよね。

有馬
だからこそ、起業家などの授業を通して、自分も社会の一員として社会をつくっているし、社会を変えることもできると子どもたちに思ってほしいと考えています。教員からも、親や子どもが変わったという声を聞くことがありますが、その親を育てたのも自分たち学校であるわけで、望ましくない方に変わっているとするなら責任は自分たちにあると思うんです。


先日、30歳になった教え子と再会されたそうですね。

有馬
そうなんです、すごく素敵な青年たちになっていました。だから、彼らが作っていく社会はきっと良い方向に変わっていくと思っていますね。

「良い先生」とは

—— 有馬先生は、今後どのようなことに取り組んでいきたいと考えていますか?

有馬
先日、思い入れの深い子どもたちを卒業させて、燃え尽きた感覚があったのですが、新学期になって新しいクラスを持ち、やはり楽しさを感じています。今年は桜の開花が遅かったので、初授業では学校を出てすぐの桜を見に行ったんです。キャッキャッとはしゃいでいる様子を見ながら、子どもたちも含めて、なんて美しい光景なのだろうと思いましたね。

若いときの自分に敵わなくなった部分もありますが、今だからこそできるようになった部分もあるし、まだまだ試したいこともあるような気がします。この先どうなりたいという具体的な目標はありませんが、良い先生になりたいという思いはずっと持っていますね。10年前の自分は手ごわいけれど、負けたくないと思っています。


おお、すごいですね。有馬先生が考える良い先生とは、どういうことなんですか?

有馬
クリティカルな質問ですね。まずは絶対的に楽しいと思わせたいですよね。あと、自分を好きになってほしいし、周りも大体いいやつだなと思ってもらえればいいのかなと。僕はもちろん勉強もしっかり教えますが、それよりも、いろいろなものや生きることに肯定的な思いを持てるようになればいいんじゃないかと思いますね。

それこそ、旅では無駄なことをたくさんするけど、その中で大事なことが見つかるわけです。目的に向かって直線的に物事を進めてしまうと、柔軟な人には育たない。なぜなら大抵のことは曖昧で複雑なので、その曖昧さや複雑さ、不確実さを楽しんで、たいていのことは何とかなるんだと思えれば、社会に出ても幸せに生きていけるのではないかと思いますね。


バックパッカーの旅にも通ずるところがありますね。

有馬
まさにそうなんです。僕自身が旅で得たことを、子どもたちにも何らかの形で伝えていきたいですね。

—— 教育と旅は全く違う分野に思えて、繋がっているというのが印象的でした。有馬先生、今日はありがとうございました。

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