2019年6月5日、「投資家に聞く【ユニコーン大国・エストニア】及び北欧周辺国のスタートアップ最新動向」講演を弊社シンクロにて開催しました。講師はエストニア在住で、北欧各国のスタートアップ投資をしているBENE ASIA CAPITAL OU 創業者の小森さん。今回小森さんが帰国されるタイミングに合わせ、弊社代表西井が聞き手となって現地最新事情を解説していただきました。
interview
対談
ユニコーン大国エストニアの実態に迫る!
北欧スタートアップ投資家小森氏に聞く、エストニアと北欧のビジネス最新動向
【講師プロフィール】
Tsutomu Gabriel Komori/小森・ガブリエル・努 氏
BENE ASIA CAPITAL OU 創業者, Managing Partner
複数企業でテクノロジーを中心とした国際事業に従事後、名古屋ITベンチャー企業スーパーアプリで国際事業責任者に就任。インドネシアで0→1事業立上後、2015年より北欧エストニアへ移住し、独立。2015年エストニアで開催されたハッカソンでWinnerとなり、ワンクリック会社設立eSparQNow.comを創業。2015年よりエストニアでエンジェル投資を開始し、2017年ベンチャーキャピタルBENE ASIA CAPITAL OU を創業。日系初の北欧VCであり、北欧及びバルト三国の各国のインナーサークルに入り込み、Day 0からグローバル展開を前提として設計されたスタートアップに投資を行う。
会場には50人近い人がつめかけ、関心の高さがうかがえます。開演時間となり、まずは小森さんよりエストニア・北欧エリアの概要を説明していただきました。
20社以上のユニコーン企業が誕生。エストニアと北欧の概要
「スタートアップ先進国」「電子政府国家」としても話題のエストニアは、1991年にソ連から独立した、人口130万人の小国です。公用語はエストニア語ですが、イギリス等英語圏の番組がテレビでエストニア語字幕で放送されており、子供の頃からみな英語が話せるそうです。
独立後のエストニアは、スカイプなどユニコーン4社の創業に伴い、1人あたりGDPも右肩上がり。2018年のスタートアップ調達額は400億円、その90%が外国からで、国民1人あたり調達額は日本の7倍という規模だそうです。国民1人当たりのユニコーン出現率は世界一位となっています。
エストニアに限らず、北欧各国でスタートアップが盛んです。北欧各国は付加価値サービスを得意としており、その結果日本よりも高い一人当たりGDPを実現し遂げています。エストニア、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランドの6ヶ国(人口約2,700万人)からユニコーン企業が20社以上も出ているそうで驚きです。地域人口1人当たりに換算するシリコンバレーに次いで世界第二位となっています。
※ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業。「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」「テクノロジー企業」といった4つの条件を兼ね備えた企業を指す。(ウィキペディアより)
北欧でスタートアップが生まれやすい3つの理由
(1)多くの制約条件
北欧は人口が少なく、資源がない上に厳しい気候も相まって内需に期待ができないという制約条件があります。エストニアの場合、91年独立当初から激しい過疎化であったため都市部中心に発展してきたため過疎が進み、教育や医療もITを使って遠隔で行われてきました。
「経営三資源といえば『ヒト・モノ・カネ』だった時代から、スマホ1つあればサービスを作り、それをグローバル展開できるようになった今、重要なのは『ヒト・ヒト・ヒト』になった」と小森さん。小人口・資源なし・厳しい気候という「制約条件」がありながら、これまでも「ヒト」の力で発展してきた北欧。スマホでグローバルに展開できる今の時代、その制約条件こそが北欧でスタートアップが生まれる原動力になっているのです。
(2)高付加価値×グローバル
北欧のスタートアップの特徴として、万人受けするサービスではなく、ニッチな分野に対して付加価値をつけてサービスを提供しているものが多いそうです。たとえばプラグインのセキュリティ対策や、サッカー育成に限定したVRなど、ユーザー数が限られる分野であっても、英語で全世界を対象にすれば結果的にたくさんのユーザーを集めることができます(日本の10倍規模)。多言語国家で、英語も話せるエストニアや北欧諸国では、自国のみをターゲットにすることはなく、最初からグローバル展開を狙っているのです。
(3)フラットで合理的な人間関係
「エストニア人の特徴は、『超合理主義・結果重視』」と小森さん。
エストニア人はイエス・ノーがはっきりしており、合理的に物事を進めるため、たとえばビジネス関係者と食事を共にすることはほとんどないそうです。その分、日中の業務時間の密度が濃く、たとえば30分の打合せ2回程度で投資が決まることも。「いいものはいい、だめなものはだめ」と意思決定に感情が入らず、表敬訪問など不要という面で、日本とは真逆の特徴があると言えます。
一方で人間関係はフラットで、たとえば大臣やドクターなどの専門家にも、きちんと目的を伝えるとアクセスしやすいという利点があるそうです。
上記3つのポイントに加え、アイデアを推進していく実行力が高いことも北欧のスタートアップを後押ししています。
北欧では、21世紀型の教育方針で、暗記型ではなく双方向体験学習が進められており、また“スタートアップ=クール”という風潮も相まって、ユーザーの不便さや痛みを解消するためのアイデアは次から次へと生まれているそう。そのアイデアを実行していく力があるからこそ、北欧でこれだけのスタートアップが生まれているのです。
いくつ知ってますか?北欧スタートアップ事例
続いて、小森さんよりエストニアと北欧各国発のスタートアップ事例が紹介されました。
エストニアからは、格安海外送金ツール「Transferwise」、タクシーアプリ「Bolt(旧名Taxify)」のほか、フードデリバリー・ロボット「STARSHIP」など。「STARSHIP」は、AIで周辺の障害物をよけながら自動で配達するロボットで、西井も昨年現地で見かけたそうです。
なお、エストニアの2018年長者番付の1位と2位にTransferwise創業者、4位にはBolt(旧名Taxify)創業者が入っており、起業には夢があり、子どもたちにとっても目指したい職業となっているんだとか。さらにエストニアでは運転者同乗による公道での自動運転が許可されており、海外から自動運転テスト走行を受け入れています。
ほか、デンマーク発のワイン検索アプリ「vivino」、フードデリバリー「JUST EAT」、ベジタリアン・メニューアプリ「Plantjammer」、スウェーデン発の音楽ストリーミング「Spotify」、電動キックボード「voi.」、ノルウェー発サッカー選手育成VR「BEYOURBEST」、リトアニア版メルカリの「Vinted」、ベラルーシ発の動画加工サービス「MSQRD」などが挙げられました。
日本へすでに進出しているサービスもありますが、北欧からまずアメリカへ上陸し、その後日本へ展開されるため、日本から見るとアメリカから来たサービスのように思えるものもあるかもしれません。
おわりに
日本だけでなく世界各国からも注目を浴びているエストニアでは、毎年5月に国内最大のテックカンファレンス「Latitude59」が行われており、海外からの参加者も増えているそうです。
最後に西井が「キャッシュレスも自動運転も、実際に体験してみることをお勧めします。話を聞く以上に便利さとおもしろさを実感できると思います。」と話し、講演を締めくくりました。
この後、参加者は小森さんとの名刺交換や、参加者同士での懇親を行いました。エストニア・北欧のスタートアップの熱さを受け、さまざまな交流や情報交換が生まれ、最後まで活気に満ちた場となりました。
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