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【マーケター対談】「サッカーを通して日本を元気にしたい」サッカーの持つ可能性とJリーグのこれから

これまでの20年は国内で、これからの20年は海外でファンを獲得するフェーズ

――世界におけるJリーグの位置について、今はどのような状況でしょうか?

  • まず、Jリーグが開幕した1993年の1クラブの平均売上は約27.5億円でした。イングランドのサッカーリーグであるプレミアリーグは当時約18億円だったので、奇跡に近いと言えるほどJリーグの立ち上げは上手くいったんです。

    ただ、2017年を見てみると、Jリーグが約40億円、プレミアリーグが約260億円なので、成長はしているけれどもプレミアリーグと比較すると伸びていないのが現状です。

  • それは、プレミアリーグが衛星放送のビジネスを確立した点も大きそうですよね。
  • そうですね。1995年くらいから衛星放送のビジネスが本格化してきて、プレミアリーグはイギリス国内では十分に浸透していたので、世界中に映像を販売してファンを増やす戦略をとった一方で、Jリーグはまず国内で基盤を築き広げていく方針でした。開幕から20年間は日本国内でファンを増やしてきました。
    一方で次の20年を考えた際に人口減少・高齢化をしていく日本だけを市場として捉えるのではなく、もっと世界に進出していく必要があると思っています。
  • アジア戦略を始める上で、世界に出て行くための「Jリーグの強み」は何だと考えましたか?
  • 「弱かった」「歴史が浅い」「アジアにいる」ということかと思っています。昔(1970~1980年代)弱かった日本が、Jリーグ開幕前後に悲願のワールドカップ初出場を果たし、そして今ではワールドカップ常連国になるほど急激に強くなったことです。「弱かったこと」が強みなんて、逆説的ですけれども(笑)。
    ASEANの国々を軸にして考えると自分たちよりも弱かった国が今やワールドカップ常連国になっているというのは、世界でも日本だけだと思っています。欧州はそもそもASEANよりも強かったですし、韓国もASEANよりずっと強かった。このASEANより弱かった国がワールドカップ常連国になったという成長曲線を描いているのは日本だけです。またそれを短期間で成し遂げたというのも強みかと思います。欧州から比べたらまだまだ歴史の浅いJリーグですが、逆に言えば短期間で成長したとポジティブに言えると思います。
    またヨーロッパ中心のサッカー界にあってアジアの一員であることも一見弱みに見えるかもしれませんが、強みになると思っています。アジア各国に対して「同じアジアの一員として共に成長しよう!」と言って共感を得られることは、ヨーロッパのリーグには言えませんからね。また経済の成長センターであるアジアにいるというのも強みになると思っています。

――当初はノウハウを販売する予定が、無償で提供する方針に転換したとのことですが、その方針は上手くいきましたか?

  • 最初は、各国に怪しまれましたよ。「何の裏があるの?」って(笑)。でも、アジアのマーケットを大きくすることがJリーグの成長にもつながるから、そのためにノウハウを無償で提供して「共に成長していきたい」と伝えると、共感してくれて「一緒にやろう」と言ってもらえることが多いです。
  • 東南アジアのチーム、強くなりましたよね。タイやベトナムの選手がJリーグでプレーすることで、東南アジアの選手達のレベルが上がっているように感じます。タイとか、ワールドカップ予選で日本と対戦したら、結構危ないんじゃないかなと思うぐらい……。日本人としてはちょっと悔しいですけど(笑)。
  • そうですね。Jリーグのノウハウを提供することで東南アジアが強くなり、その結果日本がワールドカップに出られなかったらどうするのか、と言われることも多いです。ただ、それぐらいのレベル感にならないといけないと思うんですよ。アジアで切磋琢磨しないと、日本もワールドカップで良い成績は納められないですからね。

グローバルに広げるためにJリーグに足りていないもの

  • 世界と比較したときに、Jリーグに足りていない部分って何だと思いますか?
  • 圧倒的に足りていないのは、多言語対応のような国際化ですね。Jリーグ設立から20年間は日本をマーケットとしてプロダクトを作ってきたので、海外対応をするのには新たに労力がかかってしまうんです。
    例えば、海外の人がJリーグの試合のチケットを買おうと思っても、Webサイトが使いづらかったり、そもそも購入方法の情報発信がされていなかったりで、ハードルが高くなってしまっています。
  • シンプルに多言語対応をするだけでも、大きく変わりますよね。
  • せっかく関心を持ってくれている海外のファン層がいるのだから、そこにもしっかりと対応することで、Jリーグはもっと大きく成長できると思います。日本のマーケットは縮小しているけれども、アジア規模で見ればどんどん拡大しているので、これからは世界のマーケットに出して行く前提でプロダクトを作る発想に変わっていかなければなりません。

サッカーを通して日本を元気に、世界を笑顔に!

――今後、山下さんが目指したいことはありますか?

  • 根底には「日本を元気にしたい」という気持ちがあります。2002年の日韓ワールドカップが僕の原体験になっていて、例えば大分県の中津江村がカメルーン代表のキャンプ地でしたが、村のおじいちゃんやおばあちゃんがカメルーン人と仲良くなったとか、すごく素敵だなと思うんです。そういうことも含め、サッカーを通じて日本の地域を活性化することが、僕にとって一番大きな目標です。ですから、アジア戦略も「海外でビジネスをしましょう」ではなく「日本の地域がもっと元気になるために海外に出ていきましょう」という。
  • サッカーチームには地域名が入っていますから、海外に出ていくことでその地域の知名度も上がるし、その場所に行きたくなりますよね。僕も中田英寿選手がセリエAのACペルージャ・カルチョに行ったおかげで、イタリアの小さな地方都市であるペルージャに行っちゃいましたもん!
  • そうそう。それと同じで、東南アジアのスター選手が日本のチームに来ることにより、その地域の名が知れ渡るんですよね。日本は「クールジャパン」としてアニメやファッションを打ち出していますが、それだと「日本」は売り込めても地域には落とし込めない。一方で、サッカーチームなら「クールローカル」として地域にダイレクトに結び付けられるんです。
  • 僕らは「鎌倉インターナショナルFC」というクラブのデジタルマーケティング戦略に取り組んでいるんですが、鎌倉というエリアの知名度も使って、サッカーを通した日本の国際化を進めたいと思っています。サッカーは世界の共通言語だからこそ、上手く活用したいところです。どこの国の人でも、応援しているチームが点を獲ったら大喜びするし、あの感情の爆発力はパワーがありますよね。
  • まさに、リクルートを辞めた当時にジョインしたSEA Globalという会社でのキーワードが、「快の笑い」でした。自然に顔に出てしまう笑顔のことで、例えば赤ちゃんが母乳を飲んだ後に、教えてもいないのに笑顔になることとか。これ、サッカーでゴールが決まった瞬間にみんなが笑うのも同じ「快の笑い」なんだそうです。
  • おもしろいですね、一般的な言葉ですか? 造語?
  • 学術的に使われている言葉だそうです。作った笑顔ではなく、嬉しくて自然と笑ってしまう。スタジアムでサポーターが見せてくれる笑顔や、カンボジアの子ども達にユニフォームを届けた時に見せてくれた笑顔、そういった「快の笑い」が起きている光景をもっと広げたい年齢も国籍も関係なく楽しめるサッカーならば実現できることだと思っているので、笑顔の輪をもっと日本全国に広めていけたらと思います。

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(日本プロサッカーリーグ山下様×シンクロ西井対談 2019年11月実施)

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