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彼はサハラ砂漠で旅人になった/「旅と働く」シリーズvol.04 原 浩晃

“マーケティングと事業支援”を軸に、旅アイテムの開発・販売や宿泊施設のサポート、さらにはアーティストや国際医療NGOの活動支援までを手がける株式会社シンクロ。まさに「旅」のように自由自在に事業を渡り歩くシンクロは、どのように成り立っているのか?
このシリーズでは、シンクロメンバーに「旅」をテーマに話を聞き、それぞれの個性や会社の特徴について深掘りしていこうと思います。

異国に迷い込んだ一般人

——原さん、本日はよろしくお願いします!今朝帰国されたと伺いましたが…。

原 そうなんですよ。マレーシアとタイを合わせて3週間ほど滞在していました。

——お疲れのところありがとうございます。
それにしても相変わらずシンクロの皆さんは、世界中を飛び回ってますね。

 いえいえ、わたしは全然です。ところで、わたしは何人目ですか?

——植嶋さん、齊藤さん、松谷さんに続いて4人目です。

 その三人は生まれながらのハードコア旅人たちですよ。
わたしは、試用期間から正社員になるまで2年もかかったド素人なので、比較対象にはなりませんがよろしくお願いします(笑)

——今までの方がハードコアであることには納得です(笑)それにしても2年もの間、試用期間だったのですね…。

 旅の経験が少なくて、ずっと正社員になれなかったんです(笑)

——そこもう少し詳しく教えてもらっても良いですか?

 実は、シンクロには「10カ国以上旅しないと正社員になれない」という変な社員規定があって。わたしは今年のゴールデンウィークに、やっとクリアしたところなんです。 まさか2年もかかるとは思いませんでした(笑)
正直、シンクロに入社する前は海外旅行を意識的に避けていたんですよ。
海外旅=贅沢」というバカンスのイメージが強くて、「パーティーピーポー」が楽しむものだと思っていました。

原さんの前に立ちはだかった社員規定

——なるほど、「日常からの逃避」というイメージでしょうか。それでもシンクロに転職を決めた理由はなんでしょうか?

 それは単純にシンクロの事業に魅力を感じたからで、旅のイメージは全くゼロでした(笑)

——その転職理由については、以前のコラム「東証一部の食品メーカーに20年務めた私が、謎多きバックパッカー会社に転職したら」(https://thinqlo.co.jp/column/8719/)で詳しく書かれていますね。それにしても、シンクロに対して旅のイメージがなかったとは驚きです。 

 おかげで入社後は驚きっぱなしでしたよ。100カ国超えているとか世界一周しているとか、「なんかやばいところに来てしまった」って思いました(笑)

——まるで異国に迷い込んだ旅人ですね(笑)

阪神淡路大震災とサハラ砂漠

——先ほどお話しされていた「海外旅=贅沢」というイメージについて、もう少し詳しく教えていただけますか?

 高校時代に経験した阪神淡路大震災が、わたしの人生に大きく影響していて、それが旅のイメージにも繋がっているんだと思います。
当時、神戸市東灘区に住んでいたのですが、震度7強の揺れで、周囲の建物が崩れていく様子を目の当たりにしました。家族は無事でしたが、新築のマンションは全壊し、ライフラインも停止する中で「『死』はすぐそばにある」と実感しました。
そこから「日常にこそ幸せは存在する」という考えに至り、逆に旅を「日常からの逃避」すなわち「旅=贅沢」だと感じるようになったんです。
「今ここに幸せがあるのに、わざわざ海外に出る必要があるの?」という思いですね。
そういうわけで、これまで指で数えるほどしか海外に行っていませんでした。

——そのような中でシンクロに入社し、旅との接点が急増したわけですが、思い出に残っている旅はありますか?

 入社して2年経った昨年末に行ったサハラ砂漠が印象的です。

サハラ砂漠をひたすら歩く、ラクダとシンクロメンバー

——いきなりサハラ砂漠ですか!もっと初心者向けの場所かと(笑)

 贅沢なバカンス旅であれば行かなかったけど、5日間かけて100キロを歩くだけの旅だと聞いて「なにそれ、相当楽しそうじゃん!」と思って即決しました。

——…どこに楽しさを見出したのでしょうか(笑)

 砂漠という非日常かつ想像不可能な場所で「どれだけ過酷なのかチャレンジしてみたい!」という好奇心が湧いたんです。

——なるほど。確かにこのサハラ砂漠の旅は、「海外旅=贅沢」の印象からだいぶ離れていますね。

 むしろ対極で、サハラ砂漠の旅は私にとって「生きることに集中する」ための非日常なんですよ。
ライフラインも娯楽も、車の音も鳥の声もない無音の場所をただ歩き続け、やるべきことは、料理のための枯れ木を拾い集め、毎日テントを張るなどの「生きるための行為」に終始するんですよ。

冒険家の仁さんも「砂漠では3000年前の人と同じ暮らしをする。つまりこれはタイムマシンだ」って言っていた通り、パンの焼き方でさえも3000年前の方法です。

——3000年前のパンの焼き方とは?

 まず焚き木で火を起こし、その上に砂を被せて火を弱め、そこにパン生地を乗せ、さらに砂で覆います。最後に砂からパンを掘り起こして、布でバンバンと叩いて完成です。

砂の中で焼き上がったパン。意外と大きい。

——確かに「旅=贅沢」というイメージとはかけ離れた、節制した生活ですね。この経験を通して旅のイメージは変化しましたか?

 「非日常な経験を通して、当たり前の日常を大切にできる」ことに気づきました。
さらに、自分が旅に対してどれだけ偏った価値観を持っていたのかも痛感しましたね。これまでのわたしは、旅の目的を「バカンス・贅沢・日常からの逃避」だと思い込んでいましたが、このサハラ砂漠の旅を通して「自分の価値観を根底から見つめ直す旅」があることを知りました。

——もちろん、お金をかけて日々の煩わしさから解放される旅もありますが、原さんが求めているのは、自分の日常を見つめ直すための旅だったのですね。
その経験は、冒頭でお話しされていた阪神淡路大震災のときの感覚とも近いように感じます。

 そうですね、とても近い感覚があります。
どちらも「日常は当たり前ではない」ことを気づかせてくれたという点で、とても大事な経験だと感じています。

——たしかに普段の生活では、そのような想像力を働かせる機会が少ないので、その重要性に気づくことが難しいですね。

 そうですよね。だからこそ、想像不可能な非日常に好奇心を抱くのかもしれません。
そういえば、社会人になったばかりの頃、大学時代の仲間たちと「クレイジーツアー」と銘打って、毎年1回、無謀な国内旅をしていました。
急に指定された場所に集合して、無茶をするという旅です(笑)

——早速想像を超えてきましたね(笑)

 石垣島を140キロ、ひたすらママチャリで一周したり、懐中電灯を持って1日走り続けるエクストリームマラソンのようなものに参加したこともあります。
いわゆる学生ノリで、好奇心に身を任せて未知なことにチャレンジしていました。
それが面白いことに、シンクロでもこのクレイジーツアーに近い企画が始まる予定なんですよ。
ただしシンクロの場合は、他の旅行会社にはない特殊な文化体験ができる旅企画で、学生ノリの無茶とは違いますが(笑)

——そりゃそうです(笑)

いざ、目指せ!アフリカ大陸!

——ここからは最近の旅について伺います。
今朝帰国したばかりとのことですが、ご家族で行かれていたのですか?

 はい、今回も家族4人で行きました。
この前もフィジー経由でニュージーランドに行ったのですが、これは妥協案でしたね。
本当はアフリカに行きたかったんですよ。

——ちょっと待ってください…妥協とは一体??(笑) というかお子さんはおいくつですか?

 7歳と1歳なのでいけるかなと思ってたんですよ。
でも入国のためには予防接種が必要で、1歳だとまだそれが受けられないようで、仕方なく諦めました。
本当はケニアで、本物のマサイ民族と生活したかったのですが…。
なのでその前のステップ1、準備運動として大自然を感じられるニュージーランドに行ったという形です。

——壮大な準備運動ですね(笑)

原さんファミリーの壮大な準備運動(ニュージーランド)

 ちなみに、今回のマレーシア・タイの旅の目的は、「子供に異文化を体験してもらう」ということと、「海外での暮らしに慣れる」ことでした。
なので現地では、わたしは日中仕事をして、子どもは語学学校へ、妻は1歳の息子の育児をしながら街に出たり買物をしたりするという、日本と変わらない暮らしを送っていました。

——海外での暮らしの疑似体験ですね。実際にご家族にも影響があったと感じますか?

 とても感じています。まず何より、家族全員が異文化を目一杯楽しんでました
特に子どもの語学学校は良い刺激になったようで、帰国後も英会話に意欲を燃やしています。
実際に感じたことを「自分の日常にどう取り込んでいくか」について考え始めているので、こういった変化は本当に嬉しいですね。

——たしかに日本ではなかなか実感できないことですよね。ちなみに次に行きたい場所は決まっているのでしょうか?

 スリランカですね。ニュージーランドよりさらにワイルドで、少しアフリカに近づく意味でも、ステップ2として申し分ないと思っています。

——数ヶ月前まで試用期間だったとは思えない発言です(笑)

原さんファミリーの壮大な準備運動(マレーシア)

日常と非日常を繋げるものは「好奇心」

——最後に原さんが思う「旅の魅力」について聞きたいと思います。

 私の根底には「日常は当たり前ではない」という考えがあって、これはたまたま震災を経験したからこそ気づけたことです。
旅には、この経験と同じような気づきがあると思っています。
いろいろな国の暮らしや文化、言語の違いを体験することで、今の日常の良い部分も悪い部分も客観的に見ることができる
その目線こそが、日常の可能性を広げるきっかけになると思っています。

——先ほどの語学学校の話も、まさに日常の可能性が広がった瞬間ですね。

 非日常に飛び込んで「違いを知る」ことで疑問が生まれ、そこから自発的に好奇心が育まれる
それこそ、マレーシアに滞在中、ふと夜明けが遅いことに気づいたんです。それで子どもと一緒に調べてみたら、イギリスからの植民地支配の歴史的背景があることを知りました。
別に教育しようとしたわけではないですが、こうやって非日常から学べることは多いなと感じました。

——確かに教科書ではなく、実際にそこで生活しているからこそ生まれた疑問ですね。

 そう、だからこそ体験することが大事だし、「親がデスクワークだから旅なんて無理」と諦めるのは少し残念だなと思います。
その点に関して、シンクロは寛容ですね。むしろ「何で旅してないの?」って聞かれるくらいなので(笑)
シンクロ様、いつも本当にありがとうございます。

——素晴らしい締めくくりです(笑)

どんな質問にも迷うことなく的確な回答を返し続けてくれた原さん。その姿からは、日常的に「疑問」に向き合っていることがうかがえ、貫禄すら感じられました。
これからの旅の予定について尋ねると、「行ったことのない場所ばかりなので、まだまだ伸び代しかないですね!」と明るく答えてくれ、改めて原さんが真の旅人であることを実感しました。
旅と仕事をシンクロさせるメンバーの個性を掘り下げるこのシリーズ。次はどんな旅のエピソードが飛び出すのか?次回もどうぞお楽しみに!

(writer:越野和馬)

【プロフィール】

マーケティングディレクター 原 浩晃

2002年、食品メーカーのカゴメに新卒入社。新規販路開拓営業、ダイレクト通販事業、商品企画で計20年のキャリアを歩む。
ダイレクト通販事業では事業戦略から顧客獲得、CRM全般の設計、フルフィルメント全般、外部EC出店までを管掌。商品企画ではブランドマネージャーとして、基幹ブランドのリブランディングを中心に従事。
2020年より同社内の副業制度を活用し、化粧品通販会社2社の事業スケールアップの支援、及びクリーニングECの立ち上げ支援を行う。
2021年12月、シンクロ入社。サブスク企業からB2B企業まで幅広い事業支援を行う。
2022年より株式会社NTTドコモ コンシューママーケティング部 マーケティングディレクターを兼任。
1978年生まれ、兵庫県出身。2002年大阪市立大学商学部卒。

メンバープロフィールはこちら

「旅と働く」シリーズ

vol.01 “旅ノルマ”で毎月旅へ。“好奇心と人”でどこまでも行ける(植嶋)
https://thinqlo.co.jp/column/13548/

vol.02 動じないその姿はまるで仙人!“肌感覚”でつかむ自由とこだわり(齊藤)
https://thinqlo.co.jp/column/13674/

vol.03 “楽しい”ことへの飽くなき探究者(松谷)
https://thinqlo.co.jp/column/13724/

vol.04 彼はサハラ砂漠で旅人になった(原)
https://thinqlo.co.jp/column/13766/

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