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“楽しい”ことへの飽くなき探究者/「旅と働く」シリーズvol.03 松谷 一慶

“マーケティングと事業支援”を軸に、旅アイテムの開発・販売や宿泊施設のサポート、さらにはアーティストや国際医療NGOの活動支援までを手がける株式会社シンクロ。まさに「旅」のように自由自在に事業を渡り歩くシンクロは、どのように成り立っているのか?
このシリーズでは、シンクロメンバーに「旅」をテーマに話を聞き、それぞれの個性や会社の特徴について深掘りしていこうと思います。

声をかけられ、10時間後にはオフィスに出社

——シリーズ3人目は、訪問国数が100カ国を超え、世界一周の経験もある松谷一慶さんです。早速ですが、自己紹介をお願いします。

松谷 よろしくお願いします。経歴としては、新卒で製薬会社に入社して臨床開発職として4年間働いた後、退職して翌月から3年間かけて世界一周をしました。西井さんに出会ったのはちょうどその時です。
そして帰国後、その縁もあってシンクロで働くことになり、そこから8年経って今に至ります。

——なるほど、西井さんとはどこで出会ったのでしょうか?

松谷 最初に会ったのはイースター島のハレカポネという旅人が泊まる宿でした。
その当時、西井さんは旅先で出会った友達と来ていて、僕が夕方にチェックインしていたら「今から車で星を見に行くんだけど、一緒にどう?」って誘われたのが出会いですね。

2014年4月、イースター島で西井と出会う

——ロマンチックな出会いですね(笑)

松谷 そうですよね(笑)
その後もブラジルで再会して、一緒にワールドカップを見に行きました。
三回目に会ったのは、僕が帰国したタイミング。
その時に西井さんから「これからどうするの?」って聞かれたのですが、僕は帰国したばかりで特に決めてなくて「とにかく何か新しいことをしたいと思っています。今興味があるのは花屋とパン屋で…」と答えたら、「ならシンクロで働いてみない?」と誘ってもらい、その10時間後にはオフィスに出社していました。
その後、自分がどうやらマーケティングの仕事をするらしいと知りましたね(笑)

——すごいスピード感…。最終的に何もわからないままシンクロに入ったということですが、不安はなかったのですか?

松谷 全くなかったです。そもそも当時の僕は無職で、シンクロという会社自体も仕事の内容も「知らないこと」ばかりで好奇心をくすぐったんですよね。
そういう意味でも、まだ旅が続いている感覚で「知らない場所に行った時に、自分は何を感じてどう行動するのか」を知りたくて飛び込んだ感覚です。

——新しい国に行くイメージで、シンクロにも飛び込んだということですね。それが今や、シンクロだけにとどまらず株式会社mihakuのCMOも兼任するほどにまで至ったと聞いています。ゼロスタートであっても、そこまで突き詰められる秘訣とかってあるのでしょうか?

松谷 秘訣と言えるかは分かりませんが、新しいことに夢中になる時間って楽しいじゃないですか。
自分の経験や知識を使って、試行錯誤しながら結果に繋げていける。
仕事ってそういった体験の連続だから面白いし、やりがいも感じられるんですよね。

——それこそ今でも旅が続いている感覚で働いていらっしゃるのですね。

裁縫糸でバイクのチェーンは直せない

——ここからは思い出に残っている旅のエピソードを聞いていきたいのですが、数ある旅経験の中で、とっておきのものをいただいてもよろしいでしょうか?

松谷 たくさんあって迷うのですが、振り返るとトラブルや失敗の経験が印象に残っていますね。チェ・ゲバラが南米をバイク旅した映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」に憧れて、バイクで半年ぐらい旅をしていた時期の話なのですが…。
ちょうどメキシコの国道のど真ん中でチェーンが切れて、立ち往生してしまったのです。
徐々に暗くなっていく中、周りを見渡しても何もないし、僕自身も装備も何も持っていない。しまいには小雨まで降りだしてきてもう散々でした。でもとりあえず何とかしないといけないので、たまたま持っていた裁縫用の針と糸で1時間ぐらいかけてチェーンを巻いて止めて、走り出したら一瞬でまたチェーンが切れました。
そりゃそうですよね(笑)
一旦ふて寝して、翌朝から100キロぐらい先の街まで押して進むことにしました。

荷物をバイクに括りつけ、8か月かけて中米縦断

——ものすごい話ですね(笑)

松谷 いやー、大変でした。でもおかげで「腹のくくり方」はすごく上手になりました。
それこそ旅が好きな人の強みは、想定外の失敗も楽しめることだと思っています。
これまでの旅を振り返っても、失敗した経験の方が思い出に残っているし、話のネタにもなるじゃないですか。
でも初めから想定される失敗には価値がなくて、あくまで本気でうまくいく未来に向かっていくその道中で発生してしまった失敗に対して、がむしゃらにリカバリーしてきた経験があるから、楽しい思い出として残るんですよね。
だからこそいつだってやると決めたら、何もかもうまくいく未来を目指して全力で取り組むことができる。
そしてその過程で起きる想定外の失敗すらもエネルギーに変えて楽しめる強さがあると思います。

——確かに旅に関わらず、仕事や私生活でも思わぬトラブルや失敗は付き物ですよね。

松谷 そうですよね。しかもトラブルや失敗って自ら選べるわけではなく、突然やってくるじゃないですか?
だから、その状況に立った時に「どう越えるか」を考えるチャンスになる。
そういう意味でも、失敗することに価値があると思うし、記憶にも残ると思います。

——バイクを裁縫糸で直そうとしたくらいですもんね(笑)ちなみに先ほどのバイク旅はその後どうなったのですか?

松谷 通りがかったトラックドライバーが助けてくれて、その後もいろいろと優しくしてもらいました。

——いやはや、本当に優しい方に出会えて良かったですね。

旅をしながら働くこと

——ここからは最近の旅について伺ってもよろしいでしょうか?

松谷 最近は二週間くらいかけてキャンピングカーで周る旅が増えています。去年はアイスランドとグリーンランド、今年はニュージーランドに行きました。

——その旅の期間もお仕事はしているのでしょうか?

松谷 もう無職じゃないので、バリバリやってますよ(笑)

——失礼しました(笑)
でもここまでコンスタントに旅をしながら、どうやって仕事をこなしているのでしょうか?

松谷 特別なことはしておらず、日本時間に合わせて働く時間帯を変えているだけです。
例えばこの前までスペインにいたのですが、日中は観光して夜から仕事をしていましたね。
とはいえ僕は「自分の好きな人生を生きたい」と思っているので、基本的に仕事とプライベートの切り分けがありません。その人生の中に、仕事や旅や生活も含まれているという感覚です。

キャンピングカー生活はいつでも好きな場所がキッチンに

——本当に今でも旅をしている感覚で仕事をしているのですね。前回インタビューした斎藤さんも「働く時間をその日の予定に合わせて組み替える」とおっしゃっていましたが、シンクロ全体でそういった風土があるのですか?

松谷 そうかもしれません。そういえば2年前のカタールワールドカップの時も、シンクロメンバーと現地でサッカー観戦しながら、日本時間に合わせてみんなで仕事をしていましたね。

旅仲間が目指した理想のチームは「旅仲間」

——先ほども少し出ましたが、シンクロメンバーと行った旅の思い出はありますか。

松谷 いっぱいありますね。馬に乗って一週間駆け回ったモンゴルの旅とか、サハラ砂漠を100キロ歩いた旅とか…。

シンクロメンバーと一緒にサハラ砂漠を100km歩く

——これまでインタビューした植嶋さんも齊藤さんも同じ旅を挙げていますね。

松谷 実はシンクロ設立初期に、西井さんと「もしシンクロメンバーが増えるとしたら、一緒に旅ができるメンバーがいいな」という話をしていたのですが、こうやって実際にメンバーと旅をするようになって、この考えに確かな手応えを持っています。
スキルとかももちろん大事だけど、「一緒に楽しく旅ができる」メンバーって良いじゃないですか。旅を共にすることでお互いを理解し、それが信頼関係にも繋がる。
結果論かもしれないですが、今のメンバーも最高なんですよね。
新しいことが好きで、不自由さも楽しめて、他人のことを思いやれる。
それでいてそれぞれが個性的で面白くて、まさに「旅仲間」のようなメンバーです。

——実際に旅仲間である西井さんと松谷さんだからこそ、生まれた考え方なのかもしれませんね。

松谷 そうかもしれないですね。西井さんとは今でも旅先でそういう話をしています。
わざわざオフィスに集まらなくても、一緒に旅をすることでチームビルディングになる。
…という話もできますが、単純に「楽しいから」っていう理由だけなんですけどね。
旅という共通目的を持ってるから、どんな話をしていても自然と関係が深まるし、そこがシンクロっぽいなって感じています。

トルクメニスタンの子どもたちから教わったこと

——文字通り「旅のような人生」を歩む松谷さんですが、最後に「なぜ旅を続けるのか」について聞いても良いでしょうか。

松谷 僕は「旅をすることで、他人に優しく、そして自分らしくいられる」と思っています。
旅をしている瞬間って、現地の言葉やルールもわからないし帰る家さえもない、いわゆるマイノリティな存在なんですよね。
さっき話したバイク旅の時もそうだったのですが、だからこそ他人の優しさ、温もりに触れる機会も多く、自分も「他人に優しくありたい」と思うようになりました
さらにもうひとつ、自分本位な捉え方に気付かされることもあります。
トルクメニスタンという、荘厳な街並みが広がるとても不思議で非日常な国に行った時の話なのですが。
僕がバスに乗ってその非日常な風景に釘付けになっていると、そこに子どもたちがわーっと乗ってきて、何個か先の停留所で降りていったんです。
それを見た時に「あの子たちにとってここは日常で、僕はあの子たちの日常を訪問しているんだ」と気付かされました。
そういう想像力こそが、相手の立場を考える意識づけになり、他人に優しくなれると思うので、そういう点でも旅をする人生は良いなと考えています。

グアテマラで出会った子どもたち

——なるほど。何気なく生活していると固定概念が凝り固まってしまうなと感じますが、その対処としても旅を続ける意義はあるのかもしれませんね。

松谷 そうですね。司馬遼太郎の『峠』という作品で、主人公が「どうして旅を続けるのか」と聞かれた時の返答がすごく印象的で。

 

”住み馴れてしまえば、ちょうど冬の寝床のように自分の体温のぬくもりが江戸という寝床に伝わってしまう。そうなれば住みやすくはあるが、物を考えなくなる。寝床は冷ややかなほうがいい。”

(司馬遼太郎『峠』新潮文庫)

 

居心地の良さも大事ですが、僕は自分にめちゃくちゃ甘いから、油断するとすぐに何も考えなくなってしまいそうなんです。だからこそ旅をすることで、自分を無理矢理考えなければいけない状況に放り込んでいるのかなと思っています。
そういう意味でも、旅を肯定どころか賞賛するシンクロの文化は大きな原動力になっています。

——なんだかシンクロという会社とも「旅仲間」のような関係ですね。ちなみにまだまだ旅は続けますか?

松谷 もちろんです。まだまだ知らないことばかりなので。
これからも楽しい人生になりそうです。

今回のインタビューに際して、松谷さんは自身の日記を振り返ったそうで、「恥ずかしいことも言っているけど、10年前に言ったことが恥ずかしいと思えないことの方が恥ずかしいですよね」とはにかみながら話してくれました。
そこには失敗やトラブルに向き合い、「楽しさ」を見出しながら越えてきた彼自身の強さが現れていたように思いました。
旅と働くシンクロメンバーの個性を掘り起こすこのシリーズ。次はどんな旅エピソードが聞けるのか?次回もお楽しみに!

(writer:越野和馬)

【プロフィール】

松谷 一慶

1984年生まれ。京都大学薬学部卒業、京都大学大学院薬学研究科修了。
2009年新卒でノバルティスファーマに入社。臨床開発担当として、日米欧同時申請を目的とした抗がん剤のグローバル新薬開発に関わる。
3年間の世界一周旅行の後、2016年シンクロ入社。日本将棋連盟との共同事業として、将棋メディアのリニューアル、サイト・公式SNS運営、将棋中継観戦アプリのダウンロード拡大戦略立案・実行を手掛ける。
その後、スポーツ事業、健康食品ECなど幅広くデジタルマーケティングの支援を行い、現在は飲食店やパーソナルジムでのデータ分析環境設計やCRM設計など、定性定量それぞれでの顧客理解をベースにした経営戦略の策定・実行、及び組織作りを行う。
2024年4月より、日本料理店を展開する株式会社mihakuのCMOに就任。

メンバープロフィールはこちら

「旅と働く」シリーズ

vol.01 “旅ノルマ”で毎月旅へ。“好奇心と人”でどこまでも行ける(植嶋)
https://thinqlo.co.jp/column/13548/

vol.02 動じないその姿はまるで仙人!“肌感覚”でつかむ自由とこだわり(齊藤)
https://thinqlo.co.jp/column/13674/

vol.03 “楽しい”ことへの飽くなき探究者(松谷)
https://thinqlo.co.jp/column/13724/

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